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少し、休もうと思います。


今日明日は某所で上げたオリジナルSSとか
落書きで埋まると思います。


それから後のことは考えたいです
 この街を出よう。
 青年はそれから己の家に戻り部屋に入った。置手紙などは必要ないだろう。自分がいなくなっても誰も心配しやしないはずだから。早速大きな動物の鞣革で出来た鞄を取り出す。昔父親に買ってもらった品だ。それ以来もう十年以上も、何処かへ旅行へ行くときや家出のとき、剣の稽古のときと随分使い込んだものだった。中に、貰った木刀、長剣、帰りに買ってきた食べ物、水、唯一の趣味である横笛、本を数冊、筆記具とそれくらい詰め込んだ。後下着や着替えも数枚だけ入れる。
 自分は何のために旅に出るのか。答えは簡単だった。
 ふっと何かが切れてしまった。そうとしかいえない。だから腕を生かして賞金稼ぎになろうと決めた。元々自分は猟師であったし、吹っ切れた理由は人間の悪だった。ならば其の思いをぶつけるには騎士団に入るか、賞金稼ぎになるか、国家治安部隊に入るかどれかしかなかった。部隊に入るには既に年も学力も圏外になっている。よって唯一残ったのが賞金稼ぎだったのだ。
 賞金稼ぎになるには先ず大きな町に出て、情報局となるところで情報を得なくてはならない。先ず家を出て向かうのはこの街ではない何処かだ。路銀がやや心配だったが途中に小さい街もあることだろうし、笛の腕は生計を立てるくらいはあった。猟師仲間が笛の腕を褒めて芸人になったらどうかといっていたっけ。だがもうどうでもいい。今は闇の部分を切裂きたい、それだけの目的意識しかなかった。
 問題はいつ出て行くかだ。今は夕刻、玄関には家族がいるだろう。彼らは何も言わないだろうが姿と荷物を見れば何か仕出かすと考えるに決まっている。何か言われるのは嫌であったので夕食を食べて、深夜に出て行くことに決めた。

 夕食は父が好きな料理だった。食卓も元々家族と囲まない青年にとってはどうでもいいが、部屋の中で家族の声を聞いている。無職にも係わらず大きいことばかり並べる弟、耳が悪いうえに無口な父、話を流す母。それでもどうにか和になっているのが不思議なくらいで、青年は父と弟の二人が食事を終えるのを待つ。それから母が片付けているところで一人黙々と食べる。いつもの通りいつものことが過ぎる。食事の世話が一人分へって母も助かるだろう。そして明日もきっと変わらないのだ。
 そして深夜になり青年は家を出た。残したものはない。必要なものは全て持った。後は顔見知りに見られないように街を出るだけだ。そういえば友達という概念も持っていない気がする。単に必要だから口をきくだけで、自分から話はしない。そういった人間に何処へ行くのかと問われても心の声を吐き出せるはずは無い。
 人間の薄汚い部分が嫌いだ。
 それをやって弱い部分を消そうとするやつらが嫌いだ。
 だから旅に出る。賞金稼ぎとして人を斬る職を俺は選ぶ。
 そんな事を言っても誰もが笑い飛ばすに決まっている。月光を避けて道を歩くと、意外にもすんなりと町外れにたどり着き、そして門を潜り抜けてしまった。コレで誰も自分を知らない世界に出て行く。大層な困難があるであろうがそれも己の選んだ道だ。朽ち果てて弱きものとして踏み越えていかれるよりよっぽどいい。自分の選んだ道であれば逃げることも出来ないのだから覚悟を決めなくてはならない。
 寒気がした。そうか、これが圧迫感か。しみじみと思うと同時、夜道が急に恐ろしくなって、休むことなく次の街へと急いだ。

 夜道を潜り抜けて明け方になり、少し眠った。それから恥ずかしい事に目の前に広がっていた新しい街に気がついて溜息をつく。自分がこんなに臆病だとは思わなかったのだ。街に入ると賞金首の仲介所こそないものの、その他の施設は充実していた。自分のたびだった町が小さかったといえばそれまでなのだが、何より図書館があることが一番嬉しかった。暫くこの街に止まって、笛で小銭を稼ぎながら本を読める。夜は外で過ごすか、住み込みで少し働かせてはもらえないだろうか。仕事の紹介所を探すべきなのかもしれない。ふらふらと街を歩いていると一振りの剣が刻まれた店を見つけた。解りやすい武器屋だ。その武器屋が得意とする武器を象徴として置く事で買い物をしやすくするというのがよく聞く話だった。
 武器屋に入るとひんやりとした空気が青年を迎え入れた。クレイモアやレイピア、店の規模から見ると異常なまでの品の良さだ。勿論値段もそれなりに高く、とてもではないが所持金には届かない。まあ奥にいたいかつい主人を見ずとも、盗もうなどという精神は彼に存在していなかった。罪を犯して手にした武器で罪人を斬るのは気が引けたのだ。第一人からモノを盗むなど青年の中にある正義に反していた。が、しかし、ふと奥を青年は瞳の色を変えた。
 それは美しい剣だった。いや、剣というのはおかしい。多分本で見たことがある。朱色の鞘に黒の柄。半分だけ出された刀身は鏡、否、水のように透明に美しさがあった。刀だ。初めて実物を見た。そして強烈にひきつけられた。魔性のようなものではない。哀しい色気を刀身に見た気がした。
「こいつが欲しいか」
 店の主人が青年に問う。あまりに凝視しているので驚きがあるのだろう。
「これは俺特製の刀だ。お前さんが漸く気がつくまで埃をかぶっていた」
 青年は唯見とれていたが、はっとして財布の中を見た。多分アレを手にするには足りない。それに自身が飲まれそうで嫌だ。そうこうとしていたが彼は刀身に見とれた。
「そうさな、譲ってやらんでもない。但し……」

 十日間、俺に従って働け。

それが刀を手に入れる条件だった。

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